「ヘリコプターマネー」狂想曲
2016-07-17 Sun 11:29
連日、ある憶測で投機市場は大相場を演じています。
株、先物、デリバティブ、FX市場の相場は一変したように見えます。

円安・株高、背景に「ヘリコプターマネー」の臆測

隠しようのないアベノミクスの限界を突破するのが憶測の正体「ヘリコプターマネー」だと言うのですが、「実験の舞台として注目されているのは他ならぬ日本だ。 」というのは穏やかでありません。
「ヘリコプターマネー」の中身もはっきりしない段階ですが、安倍政権が何かやってくるという感じは相場の勢いから伝わってきます。
アベノミクス=安倍政権の命運がかかっているのですから、今回の急騰相場がマイナス金利導入時と同じ経過をたどる、賞味期限の問題に過ぎないと決めつけるのもどうでしょうか。

またも「ヘリコプター・マネー」論 日本、危ういタブー接近

「アベノミクス」という言霊に踊らされ約三年半になりますが、それも行き詰るとなると次の言霊が準備されているようです。
それが「ヘリコプターマネー」です。
そこで、「ヘリコプターマネー」って何か、ということになります。

ブログの後半に参照した記事の一覧を掲げていますが、No.03とNo.04を参照しましょう。

ヘリマネの核心にあるのは貨幣発行益の利用です。貨幣発行益とは貨幣の額面と製造費用との差額です。例えば、日本の一万円紙幣の製造費用は20円程度と言われていますから、一万円札を発行すると9980円が利益として生み出されることになります。貨幣発行益は、独自の通貨を発行している経済が持つ、税金とは別の財源です。
 通常の財政政策では、税収が足りない分を国債発行収入によって補い、財政支出を拡大します。発行した国債は将来の増税で償還することになります。ここで国債発行の代わりに貨幣を発行して支出に充てたらどうなるでしょうか。国債発行の場合と違って債務残高は増えず、家計は将来の増税を心配することなく消費することができます。
 貨幣を増やし、増えた貨幣が恒久的に残る。ヘリマネの定義はこれにつきるでしょう。実行する方法は、政府が直接貨幣を発行する政府貨幣、政府債務を貨幣発行によって償還する債務マネタイゼーション、財政支出の金融政策によるファイナンス、中央銀行が家計に直接貨幣を渡すなど様々な形態が考えられます。」
ヘリコプターマネーとは何か(2) 増やした貨幣が恒久的に残る 早稲田大学教授 若田部昌澄)

「貨幣発行益を考える際には、政府と中央銀行を一つのものとして考える視点が重要です。この二つを合わせて統合政府と呼びます。実際に日本銀行は政府が株式の55%を保有する認可法人であり、貨幣発行益などの収入から経費を差し引いた剰余金を政府に納付しています。貨幣発行益を利用するヘリマネは、統合政府の政策と考えるのが最も妥当です。
 中央銀行の発行する貨幣は負債なのかという議論があります。兌換(だかん)貨幣は不完全ながら貨幣の価値は貴金属の価値と結びついていました。一方、不換貨幣は、利子もつかず、期限もなく返済の必要もない国債のような存在です。したがって貨幣は負債にならないと考えられます。
ヘリコプターマネーとは何か(3) 名目GDPを増やす効果 早稲田大学教授 若田部昌澄

千二百兆を超える政府総債務残高[一般政府(国・地方自治体・社会保障基金)の債務]が積み上がっているのですから、したがって「貨幣は負債にならないと考えられます。」というのは魅力的です。
しかし、「貨幣は負債にならないと考えられます。」???という疑問は後回しにして、ヘリコプターマネーをもう少し掘り下げてみましょう。(No.05、No.06参照)
文章化すると煩雑になりますから、以下はポイントレビュー(情報統合技術の一種)で箇条書きにしていきます。

○ミルトン・フリードマンの名高い「ヘリコプターマネー」作戦は現実には次の2つのどちらかの形をとる(No.05参照)
 ・第1は、中央銀行が紙幣を増発して将来拡大する財政赤字を直接ファイナンスする方法
 ・第2は、中央銀行が既発債を買い入れ、バランスシート上に無利子永久債として計上し事実上消却する方法

後者だとすると、来日したベン・バーナンキやアデア・ターナーなどいわば一部学者が提唱する「実験」へ日本が世界に先駆けて本格的に踏み込むのですから、いずれそこへ追い込まれる予測は別として、前者を中心に検討してみるのが、妥当な所でしょう。
前者だとすれば、
○「政府の財政出動を中銀の紙幣発行で補う政策」との説明がイメージに一番近い
  ・通常の財政出動を行いつつ、その原資を「日銀による国債の直接引き受け」によって調達すること(No.08参照)
  ・新発債のほとんどを日銀の量的・質的金融緩和政策(QQE)で購入している現状が「実質的なヘリマネ状態」という評論は当初から頻繁に見られてきた(No.08参照)
  ・国内の市場関係者の間では「『ヘリマネ』という目新しい看板を掲げたところで、実態は何も変わらない」(東海東京証券の佐野一彦氏)との冷めた見方も少なくない(No.07参照)

では、そうしたイメージされているものから、政府・日銀で検討されている中身は何か、もう少し絞り込めそうです。

○ヘリコプターマネーの1つのバリエーションが考えうる
  ・積極財政と金融緩和の組み合わせを長期間実施する「広義」のヘリマネ(No.09参照)
  ・浜田宏一・米イエール大名誉教授「財政と金融(のそれぞれの政策)を近いタイミングで発動し、協力するような政策が、1度か2度行われても良いと思う」(No.09参照)
  ・「広義」のヘリマネは、有力財源の当てが不明確なまま、政府が短期的な資金繰りとして赤字国債や建設国債を増発し、日銀がマイナス金利付き量的・質的金融緩和(QQE)を強化し、財政拡張・金融緩和強化を長期間継続すること(No.09参照)

本格「実験」にしろ、半「実験」にしろ、そのまえに現状がどうなっているのでしょうか。
そこをないがしろにして異次元緩和「実験」、それがうまくいかないから次の「実験」というのは無謀に思えます。
現状はこうです。

○ベースマネー〈日銀に民間銀行が預けている準備預金と日銀券(現金)の合計〉
  ・わが国では既に巨額のベースマネーが供給済みであることを忘れてはならない/GDP比70%超え(No.06参照)
  ・わが国のベースマネーの額は、物価水準が何倍にもなることなしには恒久的に維持可能なものではない(No.06参照)
  ・将来にわたり過大なベースマネー残高を維持するというのは、インフレが高進しても放置するということだ(No.06参照)
○ヘリコプターマネー政策には名目的な負担は伴わないとしても、わが国の現状からすると、確実にインフレ税という形で将来、実質的な負担が伴うことになる(No.06参照)
  ・みずほ証券の丹治倫敦シニア債券ストラテジストは「ヘリマネ政策の最大の問題点は無秩序な通貨安に対する防衛手段を完全に失うことだ」と反論する(No.07参照)
  ・ヘリマネは円の価値を「押し下げる」というよりも「叩(たた)き壊す」政策(No.08参照)
  ・制度としてのヘリコプター・マネーの導入はインフレに対する歯止めがなくなる(No.10参照)

さて、最後に書き残した「貨幣は負債にならないと考えられます。」???という疑問についてです。

もはや古典でしょうが、ウォルター・バジョット『ロンバート街』で、中央銀行は最後の貸手であるという概念を提示しています。
銀行という銀行、金融機関と称されるすべてが取付けにさらされたときイングランド銀行がとった措置の、生々しい、実務者であり学者の記録です。

「そして、この日、およびその後の一週間を通じて、ほとんど信じられないような信用融資を実施した。これほど多額が貸し付けられようとは、その直前ですら、誰にも予想がつかなかったはすだと私は思う。(中略)適切な担保を携えてやってきた人々は、誰でも寛大に扱われた。要求された融資が当行には融資できなかったとしても、適切な担保を提示したのに、当行から救援を得られなかった例は皆無だった。」

ところで「貨幣は負債」でないとしたら何でしょうか。
バジョットは「適切な担保」を明示しています。
私の千円札、みなさんもそうだと思うのですが、「日本銀行券」とかかれています。

つまり、日本銀行の借用書です。

負債でなければ返す必要はありません。

その瞬間です。
信用が壊れる、
信用という仕組みが崩壊する。


それもまた憶測でしょうか。

[参照リスト]
 01.円安・株高、背景に「ヘリコプターマネー」の臆測
 02.またも「ヘリコプター・マネー」論 日本、危ういタブー接近
 03.ヘリコプターマネーとは何か(2) 増やした貨幣が恒久的に残る 早稲田大学教授 若田部昌澄
 04.ヘリコプターマネーとは何か(3) 名目GDPを増やす効果 早稲田大学教授 若田部昌澄
 05.ヘリコプターマネーの是非(上)日銀の財政資金供給 不可避  規律ある枠組みで実行を アデア・ターナー 元英金融サービス機構(FSA)長官   
 06.ヘリコプターマネーの是非(下)なし崩し的に実施の恐れ  金融緩和の出口 議論急げ 池尾和人 慶応義塾大学教授
 07.旋回する「ヘリコプターマネー」議論 円相場に波風 経済部 浜美佐
 08.コラム:円の価値を「叩き壊す」ヘリマネ議論=唐鎌大輔氏
 09.焦点:政府・日銀、ヘリマネ「検討せず」 市場に「広義」の思惑
 10.インタビュー:ヘリマネに反対、財政・金融の協力あっていい=浜田内閣官房参与
 
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エスタブリッシュメントにたいする「反乱」がはじまったー英国EU離脱ー
2016-06-28 Tue 15:12
「反乱」は米大統領選予備選に次いで、Brexit=英国離脱の国民投票に噴出した。

マスメディア、経済学者、専門家、アナリスト、あるゆる言論を動員して「恐怖作戦」を展開し、脅しつづけたにもかかわらず離脱が上回った。
英国がいかに貧しくなるか、警告、どう喝が相次いだ。
投票後においても英国のEU離脱に対するバッシングはすさまじい。

それでも離脱が残留を上回ったのはなぜか。

資本にとっては国境は障壁だ。
利潤を貪るのが資本の本性ならグローバリゼーションは彼らの利益にかなっている。
EUの理念より、一部のものだけが富をつかみ、大多数の国民は恩恵からすり抜け、貧困化にさらされつづけてきた実態が彼らに選択の根拠を与えた。

誰が潤い、誰が貧しくなったか。
大多数はグローバリゼーションによって、貧しくなっている。
EUに加盟していないスイスのように、資本にとっては不都合な国境が国民のバリアーになっている事実も忘れてはいけない。

マスメディアの言いなりなっているこの国が目覚めるのはまだ遠い先だろうが、エスタブリッシュメントにたいする「反乱」ははじまっている。
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そろそろアベノミクスのツケを見積もっておこう
2016-05-11 Wed 17:12
ぼくらはいずれアベノミクス時代のツケを払うことになるだろう。
学者はその現状をどう見ているか。
日経新聞「経済教室」の小論が参考になる。

・サミット経済政策の課題(上)潜在成長率の向上議論を 財政出動で政策協調困難 伊藤隆敏 コロンビア大学教授

“まず、日本経済の現状を適切に把握することが大切だ。インフレ率は0%近辺を低迷しているようにみえるが、生鮮食品とエネルギーを除いた基調的インフレ率は既に1%を超えている。失業率も3%台前半まで改善している。労働力人口の継続的低下から、潜在成長率は0.5%以下であり、国内総生産(GDP)ギャップはマイナス2%を下回る程度だ。マイナス成長といっても深刻な不況には当たらない。根本的な問題は潜在成長率の低下である。こうした状況では、さらに政府債務を増やすような財政赤字拡大ではなく、金融緩和を継続する中で、ターゲットを消費性向の高い若年層に絞った可処分所得の向上策や、投資を呼び込むような規制緩和策の実施が賢明だ。”

・サミット経済政策の課題(中)財政・金融双方の拡大必要 日本、脱デフレへ財政活用 B・アイケングリーン カリフォルニア大学バークレー校教授

“中央銀行はもっと手を打つべきではあるが、だからといって手段を選ばなくてもよいということではない。経験から言うと、資産購入または量的緩和に集中し、マイナス金利は避けるべきだろう。マイナス金利は債券市場の流動性低下という困った問題の深刻化を防げる点で魅力的だ。だがその代わりに一層深刻な別の問題を引き起こす。まず準備預金金利を払わなければならないため、銀行の経営が圧迫される。さらに預貸利ざやが縮小するため、バランスシートが悪化して貸し出しが低調になる。これが経済成長につながらないことは、1990年代の経験から日本はよく知っているはずだ。”

・サミット経済政策の課題(下)成長促進、構造改革が本筋 金融政策頼み脱却急げ クリストフ・シュミット ドイツ経済諮問委員会委員長

“ユーロ圏の政策当局は日本の事例から、構造改革をいつまでも先送りしているとどれほど悲惨な結果になるか学ぶべきだ。安倍政権の経済政策「アベノミクス」の戦略は緩和的な金融政策と財政政策そして構造改革の組み合わせと発表されたが、改革は停滞している。日本がどうやってこの悲惨な状況から抜け出すのか、今となっては想像することも困難だ。欧州は同じ轍(てつ)を踏むべきではない。”

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サミット経済政策の課題(上)

サミット経済政策の課題(中)

サミット経済政策の課題(下)
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潜在成長力0.2%の国の株買い総動員令
2016-04-15 Fri 08:16
日経平均は三日間で約千二百円吹き上げた。
衆参ダブル選挙前に、日本株買い総動員令がかかったとうわさされている。
年金が動き、簡保も郵貯も買いに動いた。

消費増税見送りと日本株維持のセットで、アベノミクスのお化粧がはじまっている。

日本銀行は4月5日「需給ギャップと潜在成長率」を掲載した。
それによると、潜在成長率の推計値は以下の図表のとおりだ。
この国の衰退は隠しようもない。

万策尽きた安倍政権の断末魔が見えてきた。

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潜在成長力2015年2月
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シリア、エジプトの古代文明発祥とその脆弱性
2016-04-04 Mon 14:06
ワールドカップアジア二次予選最終戦、日本はシリア代表に5−0で完勝しましたが、内戦状況のなかどうやって代表が選出され出場できたのか。
気になったものです。
アジアは40ヵ国が、そして同じ時期に戦われているワールドカップ・アフリカ二次予選にも、エジプトをはじめ40ヵ国が参加しています。

シリアそして隣国エジプトも人類最古の文明発祥地ですが、いつ、なぜこうした人心を含めた荒廃地になったのか、考えさせられます。

最近読んだなかではヴェルナー・ゾンバルト『ユダヤ人と経済生活』、なかでも第十四章「ユダヤ民族の運命」のつぎの一節が古代文明の脆弱性を伝えていて、サッカー予選から気になっていたことの一つが解けたように感じています。

“ユダヤ人が発生した地域は、そのなかにオアシスが、すなわち人間や家畜が住むことのできる水の豊富な場所が点在する一つの巨大砂漠地帯であった。こうして点在したオアシスのなかでも、とくに大きなオアシスのなかで、周知のように人間の最初の古代文明が発展した。エジプト、メソポタミア、パレスチナがそれにあたる。これらの地域はいずれも、面積は狭くとも実りの多い場所でーその大きさからいってもー全く砂漠内のオアシスと同じ性格を備えている。なにしろエジプトで農耕のできる土地は、ブロイセンの属州ザクセンくらいの広さの面積しかないのだ。メソポタミアは、その最盛期の面積は、上部イタリア程度である。
[ヴェルナー・ゾンバルト『ユダヤ人と経済生活』荒地出版社 (1994/12)、P.513]

さて、農業が主たる産業であったエジプト文明と現代文明を単純に比較することはできないでしょうが、
それにしても日本の農業がGDPに占める割合はおおよそ1%ですから、
比較するなら、農業を取り出して比べてみるしかないでしょう。

ゾンバルトは「なにしろエジプトで農耕のできる土地は、ブロイセンの属州ザクセンくらいの広さの面積しかないのだ。」と述べていますので、耕作面積を単純に比較してみましょう。

現在ドイツのザクセン州の面積18,420 km²。
平成27年における日本の耕地面積449.6万ha[=44,960 km²]。

エジプト文明における耕地面積は、現代日本の耕地面積の40%程度であったことが分かります。
しかも、「日本の農業がGDPに占める割合はおおよそ1%」ですから、
GDP比較をすれば、エジプト文明は現代日本の0.4%にすぎません。

古代文明の規模を想像したこともなかったのですが、その脆弱性にあらためて直面した思いです。

さて、余談になりますが、以上述べてきた推計に現在最も近いのが北朝鮮です。

北朝鮮の名目GDP(国連統計) 17,396mil.US$ (2014年)
日本の名目GDP (IMF統計)   4,602,367mil.US$ (2014年)
名目GDPにおいて北朝鮮は日本の0.378%です。
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