中沢新一「日本の大転換(上)」を読んでー生態圏と一神教ー
2011-05-09 Mon 07:30
地球の半径6,356.752 km(極半径)に対して、僕らが生きている地表はほんの数kmの厚みでしかない。
千分の一に満たない3D空間が人の全世界だ。
表面積は約5億1,007万2,000k㎡だから、限りなく平面に近い3Dということになる。

中沢新一「日本の大転換(上)」(『すばる』6月号)を読む。

地学で学んだ知識はあるが、地表を想像することはできない。
まるで腰の下に敷いたカーペットに生息する、見えないが確実にうごめいているいきものの一種のように思えてくる。
薄っぺらなカーペット一枚が、人類と生き物が生きるすみかだ。

中沢はそれを「生態圏」とよぶ。

彼はこう書いている。
“人類を含めてあらゆる生き物がそこで生きている生態圏では、さまざまな化学反応や電子反応が起こることによって、生き物たちの活動はおこなわれている。(中略)要するに、生態圏に生きる私たちの実存のすべては、安定した原子核の外側を運動する電子によって支えられている。”

化学反応、電子反応の代表例が植物の光合成だ。
そして食物連鎖によって、僕らは結びついている。
生態圏は一体だ。

生き物は(そして自然の一部である人も)生態圏という「内部」でしか生存できない。
猛威をふるう台風は、災害をさまざまに引き起こすが、生態圏そのものをこわしはしない。
かえって雨は土地を豊かにし、生き物はそのなかで育まれる。

これに対し、核エネルギーは“原子核の内部にまで踏み込んで本来は生態圏には属さない「外部」を「内部」に持込んで”つくられた。

原子力発電は、火力発電や水力発電とは違う。
原子力発電をのぞけば人類が使ってきた薪から石炭・石油・電気にいたるまで、太陽エネルギーを始源としている。
水の循環による水力発電も、化石燃料による火力発電も元をたどれば太陽エネルギーだ。

“それはこの出来事を境として、日本文明が根底からの転換をとげていかなければならなくなった、という事実である。”
出来事とは、三陸沖の海底に発生した巨大地震が引き起こした津波と、電源設備を破壊された原発のことだ。

原子力発電は、“ほんらい生態圏には属さない「外部」を思考の「内部」に取り込んでつくられた思想のシステム、それはほかならなぬ一神教(モノテイズム)”である。
“一神教が重要なのは、それに特有な「超生態圏」的な思考が、西欧においてキリスト教の衰退後に覇権を握った、世俗的な科学技術文明の深層構造にも、決定的な影響を及ぼしているからである。”

中沢が言ってるのは、皮相な反科学思想ではもちろんない。
東日本大震災で生じた岩手、宮城、福島3県において、生態圏には還元できない有害物質を含んだガレキの推定量が合計最大約2,490万トン(これに船舶や自動車などが加算される)に達っしている。
原発が生み出すプルトニウムなどの放射性物質はその最たるものだろう。

中沢は言う、「生態圏が破壊されている。」のだと。
放射性物質による汚染によって、このわずか数kmの厚みにすぎない地表が「外部」に追いやられ、生態圏が失われる。
いまだ展望のない原発事故ともども、すぐれて豊かな生態圏文明であった日本文明が西洋文明を抱え込んだ矛盾によって破綻に直面し、大転換を迫られていると指摘するのである。

(下)が楽しみだ。


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福島第1原発1号機――アメリカ製の原子炉――なんてものを受け入れざるを得なかったのは、憲法9条――対米従属――のせいではあるまいか?
2011-08-12 Fri 10:58 | URL | 軍神 #UMtEH1cc[ 内容変更]
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