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高齢者層の今後ー3.11以降ー

中前忠が問いかけているのは、3.11以前に広がっていた日本の疲弊(ひへい)についてである。

“国民所得統計によれば、国民所得に占める利子支払いの割合は、91年の34%から直近の2009年には13%へと20ポイント強低下した。500兆円経済の20%、年間100兆円の所得が、家計部門を中心にした貯蓄者から、主に非金融法人企業と国という借り手に移転してきたのである。とりわけ急増する高齢者の利子所得が奪われたことが大きい。ゼロ金利によって利子所得が奪われ、高齢者層は年金以外に所得がなくなってしまった。
(下段参照=4/28日経・経済教室『転機の内外金融政策(下) 中前忠“緩和の功罪 内需刺激へ金利正常化を”』)

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出典=宮本佐知子『「家計の金融行動に関する世論調査」にみる家計の資産選択

日銀が初めて「ゼロ」金利政策を打ち出したのが1999年2月だ。
(当時の速水優日本銀行総裁が「ゼロでも良い」と発言したことからゼロ金利政策と呼ばれるようになった)
短期金利の指標である無担保コール翌日物金利を史上最低の0.15%に誘導した。
その後の推移は、図表のとおりである。

預貯金は利子をほとんど生まなくなった。

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出典=Wikipedia「無担保コール翌日物

国民経済計算では家計の資産構成に占める不動産の割合は40%、全国消費実態調査では73%にのぼる。
家産といっても賃貸用資産ではなく、もっぱら自宅とその土地である。
収入を生まない資産が大部分である。

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出典=小池拓自『家計の保有するリスク資産―「貯蓄から投資へ」再考―


そして、「高齢者層は年金以外に所得」がなくなった。
問題は預貯金が郵政、銀行を通じて国債に投資される現状だ。
日本経済の成長率が90年代以降ほぼゼロに低下するなかで、投資先を失った資金は、国債へと流れ込んでいく。

中前の論文に先立って掲載された、
4/26日経・経済教室『転機の内外金融政策(上) 植田和男 “欧米の「出口」は 正常化への道のり険しく”』は、
世界経済が順調に回復軌道にのったとしても、他の先進国よりも弱めの日本経済は金融緩和を維持しなければならないと指摘する。

その場合のリスクは、
“日本国債利回りの不安定化である。長い間国債の消化を助けてきたデフレが終焉(しゅうえん)するのであれば、予想以上の国債金利上昇に留意が必要”である。

高齢者層は直接日本国債を買ってはいない。
しかし、なけなしの預貯金は国債を支える資金として投下されているのが実情だ。

そして東日本大震災だ。
広がる疲弊の上にさらにどんな影響を与えることになるのか。
デフレの収束(インフレの兆し)、国債金利上昇、数十年単位の長期化が予想される原発事故、津波被害によるサプライチェーンの寸断と日本産業の地位低下、そして見えてきた日本のソブリンリスク。
変数が複数個の連立方程式のように解けない難問のなか、高齢者層の今後もまたいっそうのきびしさが予想される。

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