水野和夫『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』をエネルギー収支比から読み解く
2017-05-31 Wed 12:24
 『100年デフレ』以来、水野和夫氏の著書はすかさず読んでいます。
 それで論理のクセであるとか、理論的な理解とかもあって、何を言おうとするのか先が読めます。
 ですが、はじめて接した読者は資本主義史、歴史観、利潤=長期金利の関係など難解に感じることでしょう。

 そこで、最近著の『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』の読書ガイダンスを、自分の理解を深めるためにも書いておきたいと思います。

 最終の第六章「日本の決断ー近代システムとゆっくり手を切るために」から読むのも良いと思います。
 
 キーワードは「ラビット・リミット」です。
 エネルギー収支比のことですが、“Rabbit limit”でイメージしたほうが分かりやすい。

「ウサギを捕まえるためのエネルギーが捕まえたウサギのエネルギーより大きいならば、 いくらウサギがいたとしても、インディアンは生きていけない。」

 こういうことです。
 大戦後先進国は、自噴する石油を安価(1バーレル=2$前後、現在50$前後)で手に入れ、こうした化石燃料エネルギーによって経済成長をとげます。
 これだと、一単位のエネルギーを投入して、一〇〇単位のエネルギーが得られます。
 エネルギー収支比は一〇〇ですね。

 ところが1973年(第1次)に起こったオイル・ショックで、先進国には安価な石油が手に入らなくなります。

 これにかかわる歴史は省略しますが、これ以降Rabbitをつかまえるのに手間ひまを掛けなければならなくなります。
 今日さわがれているシェール・オイルは一単位のエネルギーを投入して、二単位のエネルギーしか手に入りません。
 化石燃料に依存した経済社会が限界に近づいているのです。

 エネルギー収支比は二ですね。
 エネルギーの一は掘削するために使い果たしてしまいます。
 残る一が正味手に入るエネルギーです。

 2010年に発生したメキシコ湾原油流出事故でそうした現状がいっそう明瞭に見えてきます。
 BP社の石油掘削施設「ディープウォーター・ホライズン」は、メキシコ湾沖合80km、掘削地点水深1,522mの海上に設置されていました。
 大水深の海底をリグ(掘削機)で掘削し、石油を吸い上げるのですが、そのための掘削パイプは5,500mだったと言われています。

 大変なコストをかけないと、Rabbitをつかまえることはできないのです。

 第六章を理解したうえで、第1章にもどりましょう。
 『「国民国家」では乗り越えられない「歴史の危機」』です。
 ここでのキーワードは、「交易条件」です。

 「交易条件」は、輸出物価を輸入物価で割った指数ですから、分母の輸入物価がふくらんで負担が多くなれば、数字は小さくなりますし、それは「交易条件」悪化の一途を示しています。
 実際今日、石油価格は多少値下がりしたとはいえ、それでも石油ショック以前の25倍です。
 先進国の経済成長は鈍りはじめ、今日ではほとんどゼロ成長に近づいています。

 先進国は成長できなくなった。
 経済が定常状態に陥ります。
 彼は、日本が先頭を切った「ゼロ金利」「ゼロ成長」に先進諸国が次々と陥っていく現象を総括して、「新しい中世」と読んでいます。

 エネルギーの限界からまずは見通しを立ててから、彼の歴史観に接近するのが分かりやすい道かも知れません。
 が、これはあくまでも私感です。
 なにより一読者として、水野和夫氏の著書を多くの人に読んでほしいと思っています。
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