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アパッチ会
2019-07-08 Mon 09:30
 ラクビーで日に焼けた顔は、赤銅褐色だった。
 研ぎ澄まされた肉体と精悍な顔、大きく鋭い目が近寄ってくると、足がすくんだ。
 イニシャルがA、アで始まることもあったのだろう、僕らはアパッチと呼んでいた。

 今年の同窓会は十二名だった。
 常連だったKもOも鬼簿に入った。
 
 癌の発症、再発の告白が連続し、隣のN君がぼそっと首の周りを撫でた。
「俺はここを二回手術しているよ」
 
 高校の同窓会といっても中高一貫の男子校だ、女っ気がない。
 毎年先生夫妻をお呼びしてていたが、昨年先生が逝去し、奥様は介助の友人を同伴して出席された。
 足元が悪い。
 
 1周忌と呼ぶようだ。
 三回忌以降は「回忌」となる。
 奥様が形見分けを持って来ていた。
 
 万年幹事のYくんがあみだくじをつくり、僕はGenosのネクタイピンとカフスセットが当たった。 
 詰襟で袖に蛇腹がついた紺の制服に革靴。
 以来スーツというものが嫌いになったが、一度はつけないと供養にならない。
 
「妻が2ヶ月前に突然死した。湯船に浮かんでいた。」
 ふつふつと想いが溢れてくるのだろう、話が止まらない。
 幹事のY君がそれとなくとめる。
 
 ましな話といえば孫話。
 孫はいない。
 しかし喜ばしい。
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金縛りが教える「寝たきり」疑似体験
2019-06-08 Sat 13:40
 一、二回、金縛りの経験はあった。
 あっ、金縛りだと思ったが、いつまでも解けない。
 どこかいつもと様子が違った。
 
 これ以上の明晰はないほどきっちり目覚めていた。
 落ち着いて、待てば体がほぐれてくることも知っていた。
 心(意識)と体の目覚めに生じたタイムラグが引き起こしているのだ。

 しかし、待てども体は動かない。 
 起き上がれない。 
 そして左右にもがくこともできないと気づいた時、恐怖が襲った。 

 左右に体を揺する。
 それすらできない状態が続き、尋常でない事態に陥っていると不安が増幅する。 

 しかし脳梗塞、脳いっ血なら意識はないはずだ・・・などと思考だけはスピーディーに回転している。
 
 目覚めたとき、腹筋運動のことは全く覚えていなかった。
 朝から腹筋を意識するような筋トレマニアではない。
 昨日腹筋ローラーをはじめて使ったことを思い出す。
 
 スイスイ行けたので、数十回を3、4セットやっただろうか。 
 そして翌朝、起き上がれない。
 この出来事の因果関係が解けはじめた。
 
 筋肉を効果的に鍛えるツールが老人の腹筋を痛めつけていたようだ。
 
 腹筋が筋肉痛で固まっていることを理解するまでにどのくらいの時間があったろう。
 ベッドから脱出したのは、腹筋のフリーズと確信してからだ。
 足をベットの外に持ち出し、自然落下を利用し、体を立てた。
 
 自分の思い通りには動かない体。
 いや、まったく動かなくなった肉体。
 走り回る意識との激しい葛藤。

 それはいつか自分におとずれるであろう未来の、一種擬似体験であった。
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思い出は整理ができない何か
2019-05-07 Tue 09:08
 アルバムの整理に手がついていない。
 両親のアルバムである。 
 物置に放ったらかしにしてある。
 
 父が亡くなって二十年、母は三年前だ。
 
 重ねて、三十数冊になるアルバムがある。
 これは自分と家族の記録だ。
 こっちもそろそろ整理しないといけない。
 
 自分が捨てられず逡巡するうちに、二重になってしまった。
 このまま放置していたら、子供たちは僕同様の迷惑をこうむるに違いない。
 
 写真を撮らなくなった?
 いつも手元には携帯しているスマホがあるから、今まで以上に撮っている。
 だが、意味合いが違ってきているのだ。

 その時々、その場所を記憶しようとは思っていない。
 記録で十分である。
 数十分か、数時間、数日で消えてしまう記憶。
 
 曖昧になって忘れてしまえるほどの軽い記憶に価値があろうはずはない。
 
 で、もっぱらスマホで写すのはメモ写真である。
 メモの代わりに写真を撮る。
 記憶のための写真は撮らない、もっぱら記録であると自覚しているつもり・・・。
 
 記録と記憶。
 
 記憶のなかに埋もれている何か。
 記録は整理しやすいが、思い出はいつまでたっても整理がつかない何かだ。
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般若心経、玄奘訳とサンスクリット語原典訳
2017-04-10 Mon 10:05
 クランク状にのびた位置指定道路の両側にそって、およそ二十戸ほど戸建てがたつようになって、四、五十年でしょうか。
 行き来があるのはその半分ですが、それでもなにかと交流はあるものです。
 東京の郊外にうまれた住宅地の一つなんでしょうが、Oさんは季節ごとに庭木に実る柿や柑橘を持ってきてくださる八十八になるおじいさまです。

 十六七年前に奥さんを亡くされてからは、よく近所を散歩されておりました。

 朝あいさつをかわしたはずなのに、夕べには亡くなっていました。
 救急車が呼ばれたようですが、出かけていて知りませんでした。

 Oさんの通夜には曹洞宗の御導師が来られ法話の後、たぶん修証義(しゅしょうぎ)、舎利礼文(しゃりらいもん)、般若心経(はんにゃしんぎょう)が読誦されたと思います。
 さて、なかでも般若心経です。

 百冊を越える関連本のなかでも、自分が親しむテキストは岩波文庫にある中村元・紀野一義訳注『般若心経 金剛般若経』です。
 右頁に玄奘訳の『般若波羅蜜多心経』(はんにゃはらみったしんぎょう)をのせ、
 左頁にはサンスクリット語原典からの翻訳をのせています。

 漢字の一文字(器)には一つの概念が盛られてあります。
 読み下していくと、左右ではずいぶん印象が違います。
 どうしても空、色等々の漢字一文字一文字にとらわれ、解釈に呻吟し、素直には読み下せません。

 同書の解説から学ぶことも多く、「原写本にない文字や文句は付け加えないこと。原写本を改めたり、また見出されない文字や文句を自信を以て附加することは、研究者にとっては非常に魅力のある仕事ではあるが、よほど学殖を必要とするのみならず、なお危険である」と戒めています。
 玄奘訳とサンスクリット語原典訳とを比較する能力はありませんが、何事か付加されること少なく読み下せるのは後者です。

 前者はいかにもありがたみがありそうですが、読誦を聞いても何を言っているか分からないのですから、何事も伝わらない事といっしょです。

「お経」を聞いて何も伝わらず、しかしありがたいとは思えません。
 率直な気持です。
 漢訳を読み下した「お経」から思考することはやめ、話し言葉で書かれたそれを何度も読返すことにしています。

 御導師によって読誦のリズム、抑揚もそれぞれですが、両訳をくり返し読み下すようになって、耳にそれが入ってくるようになったのは確かなようです。

 淡いおつきあいでしたが、Oさんから伝わる温かな気持を思い起こしておりました。

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車椅子の教師
2017-04-08 Sat 10:52
 日曜、菩提寺で母の一周忌法要がありますから、供仏、献花、遺影や位牌などせわしく準備をすすめています。
 その夜、近所の八十八歳のお父様のお通夜へまいります。
 一昨日、伯父の告別式に熊谷へ行ったばかりですので、こうしたことは続くようです。
 
 伯父は八十二歳、母の享年は九十一歳でした。

 僕が感じたのは、避けることのできない生老病死(しょうろうびょうし)に考えをめぐらすことではありませんでした。
 そうしたことはじっくり取り組むしかありません。

 六年後には後期高齢者に達するわけですが、その季節をどう生きるか。
 そんな事に思いは広がってまいります。

 十五は十五、二十歳は二十歳、三十は三十とそれぞれに初めての経験が待ち受けているのですから、後期高齢もまた初体験、知りうることは知っておきたいものだと思います。

 アグレッシブな生活は期待できないでしょうが、時間は若い季節とちがい自由に使えそうです。
 自転車、自動車を捨て、歩くことに専念するようになり、むしろスピードのなかで飛ばしてしまった、ささやかな経験のなかで豊かな思いに満たされることが多くなりました。

 街歩きは今一番の楽しみです。

 なにか特別な施設やモニュメントをめざすのではなく、ありきたりの町並みに分け入って、何事か発見するのが楽しくなりました。
 
 もっぱら電車とバスで、ついたとこからは徒歩で散策いたします。

 生産的な時間ではありません。
 モノで満たされる幸福感とも違います。
 眼にも止まらない早さのなかですっ飛ばしてきた事柄が見えて来た、そんな感じでしょう。

 経験という一瞬一瞬に消えて行く何者かを充分享受したいと思います。

 そしてそうしたことができなくなる時が来ます。
 その時は何ができるのか予測はできないのですが、それでも何事かできることを推量し、準備したいと思っています。

 昨夜はガクさんで先に車椅子になった友人と飲みました。
 リハビリで活路をと毎日がんばっています。
 今一番の教師は彼です。
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